日頃診察していると、前の病院ではアレルギーがあると言われたという話をよく聞きくのですが、今の状態を詳しく聞いてみるとどう考えてもアレルギーとは思えない子が少なくありません。
痒みがあると簡単にアレルギーと言ってしまう先生がいるようです。
また、飼い主さん自身も愛犬が痒がっていたらすぐに「この子アレルギーだわ」と思い込んでしまっている方が多いという印象です。
でも本来、アレルギーはいろいろな皮膚病の可能性を除外した上で診断すべきもの。
なので、典型的な症状や状況証拠がそろっているのでもない限り、いきなりアレルギーの心配をする必要はありません。
とはいえ、アレルギーのケースは多いだけに心配ですよね。
そこでこの記事では、アレルギーの疑いが強いと考えられる症状や状況をピックアップしてみました。
愛犬の状態と照らし合わせてチェックしてみて、疑いが強いのなら低アレルゲンフードやあらためて病院で診察を受けることを考えてみましょう。
目次
一口にアレルギーと言っても、皮膚に症状をあらわすアレルギーはいろいろあって、次のようなものがあります。
- アトピー性皮膚炎
- 食物アレルギー
- 食物不耐症
- 蕁麻疹
- 接触性皮膚炎
- ノミアレルギー性皮膚炎
この記事で取り上げるのは、アトピー性皮膚炎と食物アレルギーの2つ。
犬ではアトピーと食物アレルギーは違うものなのを知っていますか?で書いたように、この2つは犬では別物として扱います。
アトピー性皮膚炎と食物アレルギーでは症状が共通する部分と独特の部分があるので、その違いによってどちらなのかをある程度予想することもできます。
アトピー性皮膚炎も食物アレルギーも四六時中痒いもので、昼だけ痒いとか晩だけ痒がっているということはありません。
時間帯に関係なく、飼い主さんが気がついたら掻いているというのが一般的。
つまり、一時的に痒がっていたというのであれば、アレルギー以外の原因があるか、アレルギーであるとしてもアトピーや食物アレルギー以外のアレルギーが原因であるということです。
言い換えると、痒みのない皮膚症状はアレルギーではないということ。
最初しっしんがあって痒がっていても、しっしんが治ってしまったらすっかり痒みが消えているようならアレルギーの可能性は考えなくていいでしょう。
Dr.ノブ
それに対して食物アレルギーでは一年中痒がるので、その違いからアトピーと食物アレルギーのどちらなのかをおおよそ推測することができます。
上に書いたことの繰り返しになりますが、アレルギーなら皮膚にしっしんなどの皮膚炎症状が出ていなくても痒いものです。
というより、極端な話、アレルギーの症状は”痒み”だけだと考えてもいいくらい。
アレルギーがひどいワンちゃんでは、毛が抜けたり、皮膚が真っ赤にただれたり、黒い色素が沈着したり、重度の皮膚炎症状が出ていますが、あれはすべてワンちゃんが自分で舐めたり掻き破ったりすることで細菌やカビの2次感染によって起こること。
なので、初期には皮膚には何も異常がないのに、体を頻繁に掻いているという症状から始まるのがアレルギーの特徴です。
アトピーと食物アレルギーでは痒みの出る場所には一定の傾向があります。
図にすると以下のような分布。
引用:DERMATOLOGY,25,2014
左がアトピー、右が食物アレルギーの症状の出やすい位置です。
見て分かる通り、どちらもだいたい同じ。
あちこちあってややこしいですが、これらの位置に共通することを一言でいうなら、
”毛の薄くなった場所”
(目の周囲。口の周り、耳、腋窩(人でいう腋(わき))、腹部、内股、足先、肛門周囲)
となります。
いつも決まってこれらの位置を痒がっているようならアレルギーの可能性は高いです。
Dr.ノブ
いつもお腹だけ掻いているとか、足先ばかり舐めているとかのケースがよくあります。
一般の方は耳を皮膚とは独立したものと考えがちなようで、外耳炎の原因としてアレルギーのことを話してもあまりピンとこない人が多いみたいです。
上に書いたように、外耳はアレルギー症状の非常に出やすい場所。
しかも場合によっては唯一のアレルギー症状が外耳炎だけということも珍しくないのです。
ベースにアレルギーがあることで細菌やカビ(マラセチア)が増えやすくなってしまいます。
これまで何度も外耳炎を繰り返しているワンちゃんでは、一度、アレルギーを疑ってみる必要があります。
これは食物アレルギーに限った症状です。
食物アレルギーでは食べたものに対してアレルギー反応が起こるので、嘔吐や下痢の原因になっていることがよくあります。
しかし、嘔吐や下痢はいろんな原因で起こるごく一般的な症状だけに、食物アレルギーであることは見逃されやすいのです。
しかも、飼い犬の便の回数が多くないですか?それは食物アレルギーかもしれませんで書いたように、初期には便の回数が多いだけのこともあります。
皮膚のかゆみに加えてこれらの消化器症状もあるのなら、食物アレルギーの可能性を考えてみましょう。
犬は足の裏しか汗をかかないというのは、よく言われることですね。
しかし、アトピーの犬では全身に汗をかく多汗症という症状が出てくることがあります。
汗といっても、いわゆる人のかく流れるタイプの汗ではありません。
流れるタイプの汗を分泌するのはエックリン汗腺という汗腺で、犬では肉球にしかありません。
犬の全身にはアポクリン汗腺が分布していて、アトピーの多汗症ではこのアポクリン汗腺からの分泌が亢進します。
いつも毛が湿っているようになり、ニオイがあるのが特徴。
脂漏症と違ってベタベタ脂っぽくはありません。
多汗症は犬ではアトピー以外ではほぼ見られないので、毛がいつも湿っているようならアトピーを疑ってみる必要があります。
アレルギーはなりやすい犬種があるとか、親がアレルギーならその子もなりやすい家族性の素因などもよく言われます。
しかし、アトピーと食物アレルギーでは多少違うようです。
アトピーでは明らかになりやすい素因をもつ犬種があります。
一般に言われているのは、
- 柴犬
- シーズー
- ラブラドールレトリバー
- ゴールデンレトリバー
- パグ
- ウエストハイランドホワイトテリア
- ボストンテリア
- フレンチブルドッグ
- ヨークシャーテリア
- ミニチュアシュナウザー
- ジャーマンシェパード
- ダルメシアン
- コッカースパニエル
などが好発犬種として認められています。
ただし、これらは他の犬種に比べてアトピーになりやすいというだけで、このリストに入っていない犬種がアトピーになることは全然珍しくありません。
Dr.ノブ
タロ
では、食物アレルギーではどうでしょう?
実は食物アレルギーでは、犬種が違っても疫学的に差はないとされています。
アトピーでは免疫反応や皮膚のバリア機能など遺伝的影響を受けやすい要素が発症の鍵を握っているのに対し、食物アレルギーでは幼少期のアレルゲンへの感作の有無が重要であることの違いによるからなのかもしません。
しかし、まったく犬種は関係がないの?と聞かれるとそうとも言えないように思います。
なぜなら経験的には食物アレルギーの子もアトピーの好発犬種だったことがけっこう多いから。
アトピーと食物アレルギーが併発していることもちょくちょくありますので、アトピーの好発犬種の子は食物アレルギーにも注意をしておいたほうがいいでしょう。
痒みがあるからと何でもかんでもアレルギーと診断してしまう傾向には首をかしげてしまいます。
たしかにアレルギーは多いですが、必要以上に警戒する必要はありません。
ただし今回挙げた項目に当てはまる時はアレルギーを疑ってみましょう。
ごく軽い痒みならシャンプーや低アレルゲンフードを自分で試してみてもいいですが、症状が改善されない or 皮膚炎症状が強い場合には積極的に病院で見てもらうようにしてください。