世間では、”ワンちゃんは去勢手術や避妊手術をすると太りやすくなる”、と昔からよく言われますね。
手術をしても太らない子もけっこういるので、太りやすさには特に関係ないと説明する先生もいるようですが、実際のところ太りやすくなるのかならないのかどっちなんでしょう?
僕は去勢・避妊手術後には太りやすくなるから注意するように説明しています。
この記事ではその理由を解説しています。
目次
厳密に言うと、術後に太りやすい体質へと変わってしまうということはないと考えています。
しかし、以下のような変化により以前よりは太りやすくなるのは間違いありません。
オス犬のメス犬への興味は日頃の活動性や行動を変えるほどの力を持っています。
メス犬の存在に惹かれてずっと気になってそわそわしたり落ち着かないようになるもの。
特に近くに発情中のメス犬がいようものなら、オス犬は食欲そっちのけでメス犬を探したりもします。
人が恋をしてご飯も喉を通らないのと近いものがありますね。
また、メス犬の発情中は性ホルモンのバランスが大きく変化して普段より消費カロリーが増加しています。
発情前期を含めて2週間以上、発情後期まで入れると2ヶ月以上にも渡ってホルモンバランスの変化が続きます。
犬はたいていの子が年に2回の発情がありますから、発情を繰り返すというのはかなりのカロリー消費を伴うものなのです。
それが去勢や避妊によってこれらの行動の変化やホルモンバランスの変化が無くなってしまった、つまり消費カロリーが減ってしまったのに、これまでと同じ食事を続けていては太ってしまうのは当然かもしれませんね。
上で消費カロリーが減って太ってしまうと書きましたが、手術後に起こる変化はそれだけではありません。
なぜか多くのワンちゃんが食欲が以前より増えてしまうことがわかっています。
平均すると食事量は2~3割増し。
消費カロリーが減っているのに摂取カロリーが増えてしまうのですから、多くのワンちゃんが術後に太ってしまうのは自然の成り行きと言えますね。
ホルモンバランスの変化によって術後は以前より大人しくなる傾向があります。
特にオス犬では男性ホルモンが多く分泌されるようになるにつれて、支配性や攻撃性が出てくるケースがあります。
それが手術によって男性ホルモンがなくなって温和な性格になり消費カロリーが減少します。
オスの男性ホルモンは筋肉を形成する上で重要なホルモンです。
オスがメスに比べて体格がよく筋骨隆々なのは男性ホルモンのおかげ。
この男性ホルモンがなくなると、筋肉があまり作られなくなり脂肪が蓄積しやすくなります。
去勢や避妊をすると肥満のリスクは以前の2倍に上がることがわかっています。
個体差はあって必ずしも手術をしたから太るというものではありませんが、ワンちゃんを肥満させてしまったら減量するのは大変です。
去勢・避妊後は太らせないように予防に努めるのが賢明です。
以下のような方法で肥満を防ぎましょう。
今食べているドッグフードをそのまま使う場合は、これまでより給与量を減らしてみましょう。
まずは2割減くらいから始め、定期的に体重をチェックして加減していきます。
ワンちゃんがひもじくなるくらい給与量を減らさないといけないのなら、次に挙げるカロリーの低いフードへ変更しましょう。
最近は手術後のワンちゃんの体重増加を考慮した、去勢・避妊後専用のドッグフードも開発されています。
ただし、無添加ドッグフードでは去勢・避妊後専用フードはほとんどないので、無添加にこだわりたいのなら一般的なライトタイプのフードで問題ありません。

太る理由のところで書いたように、消費カロリーが減ってしまうのが大きな原因の1つになっています。
なので、減った分を補うくらいに散歩の時間を増やしたり、遊んであげる機会をこれまで以上に増やしてあげましょう。
ただし、すでに体重がかなり増加してしまっているのなら、過度な運動は腰や関節を痛める可能性が高いのでおすすめできません。
あくまでもまだ太っていない段階で行うようにしましょう。
去勢や避妊をしたら太ってしまうのなら、無理にしなくてもいいのでは?と思う方もいるかもしれませんね。
あるサイトでは、「獣医師が去勢や避妊を勧めるのは儲けるためだから騙されるな!」なんてとんでもないデマを流すところもあります。
これらの手術の最大の目的は望まない子供を産ませないということではありません。
将来の病気を予防することに最大の目的があるのです。
Dr.ノブ
それでも捨てられる不幸な子犬を減らすために、たいていの病院は去勢・避妊を利益の薄い格安の費用で行っています。
儲けるためなんてとんでもありません。
避妊をせずそのまま置いておくと、将来、乳腺腫瘍や子宮蓄膿症にとてもなりやすいのです。
これらの病気はメス犬にとって非常にポピュラーであるとともに、命を落とす原因になることもある怖い病気。
それが避妊をすることで高確率でこれらの病気にならなくなります。
乳腺腫瘍では、
- 初回発情前に避妊 → 99.5%で予防
- 1回発情後2回目前に避妊 → 92.0%で予防
- 2回目発情後に避妊 → 74.0%で予防
となります。
この99.5%で予防というのは、避妊せずに乳腺腫瘍になった犬が200頭いたとしたら、初回発情前に手術をしていれば199頭は乳腺腫瘍にならなくて済んだ、という意味。
初回の生理が来る前に避妊してしまえば、ほとんど乳腺腫瘍になる心配はないということになります。
また、子宮蓄膿症に関しては手術の時期に関わらず、避妊後は100%予防できます。
オス犬でも睾丸があることで将来的に前立腺の病気や睾丸の腫瘍、会陰ヘルニアになることがあります。
病気の確率や重症度でいうとメス犬よりも低いですが、去勢をすることで確実に予防できます。
前述のように、オス犬では手術で男性ホルモンが出なくなることで、穏やかになり飼いやすくなります。
メス犬でも神経質だった子が落ち着くということは珍しくありません。
また、メス犬は定期的な生理がなくなることでも飼いやすくなります。
去勢や避妊後は太りやすくなります。
太ってしまう前に予防対策に取り組むのがおすすめ。
必ず太るということではありませんが、これまで以上に体重管理に注意しましょう。