プレミアムドッグフードを勧めるサイトでは、必ずと言っていいほど穀物不使用(グレインフリー)のドッグフードがいいと書いてあります。
その理由として犬は肉食だから穀物は消化が悪いし、必要がないというもの。
ひどいものでは、犬にとって穀物は毒やゴミあつかいにしているサイトもあります。
基本的にグレインフリーがベターなことには異論はありませんが、ネット上の意見は極論が多いですね。
個体によってはある種の穀物を使用している方がいいこともありますし、穀物を使っているドッグフードがすべてダメだとは思わないです。
実際のところワンちゃんにとって穀物は消化が悪いのでしょうか?
この記事では、その問いに対する明確な答えと、ちょっと過激ともいえるネットの穀物バッシングの根拠についてひとつひとつ検証してみました。
Dr.ノブ
タロ
そもそも、ドッグフードには穀物がそのまま入っているわけではありません。
犬でも十分消化できるように加工がされているのです。
製造工程で穀物は完全にすりつぶされ、加圧・加熱されることで穀物中のデンプン(β-デンプン)が糊化(α-デンプンへと変わる)します。
糊化したデンプンは文字通り糊(のり)のように柔らかく、消化吸収されやすい状態になります。
そして、高温高圧の状態を一気に大気中に放出して膨らんだもの(発泡処理)がドライフード。
このようにしっかりと加工されているので、犬でも問題なく消化することができるんですね。
Dr.ノブ
タロ
動物病院で治療のために使われる療法食には米やコーンスターチなどが使用されていることは珍しくありません。
特に米は消化のいい原料で、消化が良すぎるために後述する肥満などの問題をはらんでいるほどです。
診療においても下痢で療法食を食べてくれない場合に、柔らかく炊いたご飯を与えてもらったりします。
以上のことから、穀物=消化が悪い、という主張は的外れと言わざるを得ません。
「本来、肉食である犬には穀物は必要ではない、消化が悪い」という主張の根拠が、ネットではいろいろと書かれています。
その根拠は妥当なのか?ひとつひとつチェックしてみましょう。
犬にとって穀物は消化が悪い理由の1つとしてよく挙げられているのが、「犬の歯は穀物をすりつぶせない」から消化に悪いという意見。
でも、おわかりですよね。
上で述べたように、ドッグフードは穀物がそのまま入っているわけではありません。
消化吸収されやすく加工されたドッグフードのどこにすりつぶす必要があるのでしょう?
それに犬は食べ物をあまり噛まず、ほとんど丸呑みに近い食べ方が普通です。
胃の中で水分を含んだら柔らかくなってなんの問題もないことは、ドライフードをふやかしたことがある方ならご存知でしょう。
犬が穀物をうまく消化できない理由に、「アミラーゼが少ないから」という主張があります。
アミラーゼは食品中のデンプンの消化に重要な働きをします。
サイトによっては犬の唾液にアミラーゼが含まれないから、穀物を与えると消化不良になると書いてあります。
ところが先ほども言ったように、犬はほとんど咀嚼をせずに丸呑みする動物。
唾液は主にスムースに飲み込むためのもので、もともとあまり消化に役立つものではありません。
そして、犬もちゃんと膵臓からアミラーゼを分泌しデンプンの消化をすることができるのです。
アミラーゼの活性は食事の内容によって変化し、生肉だけを与えているとアミラーゼはあまり分泌されませんが、ドライフードを食べさせると数倍にアップします。
効率よく消化吸収できるように、食事内容に応じてアミラーゼを増減できるようになっているのです。
ネットでは、「穀物はかさ増しのためにドッグフードに使用している」から穀物の入ったドッグフードは粗悪品だと叩かれています。
他の野菜などを使うより、穀物は栄養バランスが取りやすくコストも安いため、ドッグフードの原料としてよく使われます。
安いドッグフードではコスト減のため、穀物がかなりの量を占めている製品があるのは確か。
そういう意味では、かさ増しのために使っているというのは間違ってはいません。
しかし、後述するようにさまざまな栄養が含まれていて、バランスよく栄養を摂ることができ、肉では摂取できない栄養素も摂取することができます。
かさ増し以外にも、穀物を使用する意味はあります。
Dr.ノブ
「穀物は消化が悪いので内臓に負担をかける」ということもよく言われます。
これはアミラーゼのところで述べたことと重なりますが、穀物は消化が悪いというのはドライフードに関してはまったく当てはまりません。
ドライフードを作る際にはエクストルーダという機械で発泡処理されます。
小麦、大麦、米、トウモロコシ、ポテトなど、種類にかかわらず、発泡処理された穀物は犬が食べても99%以上の消化率があります。
ただし穀物を発泡処理していない場合は、小麦とコーンスターチでは吸収が悪くなります。
「オオカミを祖先に持つ犬は肉食なので炭水化物を必要としない」という話があります。
炭水化物はエネルギー源である糖の主な材料です。
しかし、糖は脂肪やアミノ酸からも作ることができます。
もともと肉食の犬は、アミノ酸から糖を作る能力が高く、炭水化物を補給しなくてもアミノ酸から必要なエネルギーを供給することができます。
ただし、エネルギーをまかなうだけのタンパク質、つまり十分な量の肉を食べる必要があります。
そんな条件を満たしたドッグフードとなると、原料の大半に肉を使用しなければならず非常にコストが高くなってしまいます。
それを満たしているのは価格の高いプレミアムドッグフードしかありません。
Dr.ノブ

犬は穀物の消化が苦手とする根本的な理由として”犬は肉食”ということが強調されます。
しかし、犬は人と何万年も前から暮らすことで雑食へと変化してきています。
歯や腸の長さなど肉食の名残りを色濃く残しますが、長年の食生活で肉以外の食べ物の消化にも適応してきているのです。
食べ物の内容によってアミラーゼ活性が変動するというのがその証拠。
あのパンダだって肉食の歯や腸を持ちながら笹を主食としているのです。
パンダ自身の消化率は悪く、笹の十数%しか消化できないのですが、消化を助けるパンダ特有の腸内細菌を持っているためやっていけるのです。
なので、”腸が短いから穀物を消化できない”というのは当てはまりません。
犬は雑食へと進化の途中にあるのです。
Dr.ノブ
タロ

穀物はちゃんと加工してあげれば消化のいい栄養源となります。
しかし、肉類などの動物性タンパク質は”必須”ですが、穀類は”必須”といういわけではありません。
それでも穀物を利用することでコスト以外にもメリットはあります。
穀物は取り扱いが簡単で、種類や量を加減することで栄養のバランスを取りやすい食品です。
また、動物性食品にない栄養素が多く含まれ、それらの補給源としても有用です。
上で、犬は炭水化物を必要としないとしましたが、植物にしか含まれない栄養素は必要です。
野生では草食動物の内臓を食べることで、半分消化された植物から必要な栄養を摂っています。
飼い犬に消化物の入った内臓を食べさせることはできないので、代わりに消化できるように加工した野菜や穀物を与える必要があります。
穀物に豊富に含まれる食物繊維は、便がやわらかい場合は固まるように働き、便秘気味の場合は腸の収縮を刺激して便通をよくします。
今流行りのプレバイオティクス。
豆類に多く含まれる少糖類はプレバイオティクスに分類され、腸内細菌を活性化して腸の健康維持に働きます(ビフィズス効果)。
わざわざドッグフードにプレバイオティクスとして添加されるフラクトオリゴ糖も少糖類の1つです

かさ増しと揶揄(やゆ)される穀物の食物繊維は、低カロリーで満腹感が得られるため、肥満治療・予防の低カロリーフードの原料として最適です。
他の原料では、満足するほど食べさせて低カロリーにするのは困難です。
穀物でもっとも問題になるのは、食物アレルギーの症状を起こしやすいことです。
すべての穀物がリスクが高いということではありません。
アレルゲンとして多いのは小麦。
他の穀物でも可能性がないわけではありませんが、それは穀物以外の食品でも同じです。
ただし、幼年期に食物アレルギーを獲得していない犬は、穀物入りの食事を食べてもアレルギーの心配はありません。
くわしくはこちらの記事をご覧ください。

もう1つの穀物のデメリットとしてあげられるのが、血糖値が上がりやすい性質。
血糖の上がりやすさをGI(Glycemic Index)であらわします。
血糖値が上がるとインスリンが分泌され、余分なグルコースは脂肪やグリコーゲンとして肝臓や組織に貯蔵されます。
高GIの食品はすぐに血糖値を上げるため、脂肪が作られ肥満しやすくなるのです。
また、インスリンを分泌する膵臓が疲弊しやすく、糖尿病のリスクが上がります。
米やトウモロコシは高GIなので、これらの含有量が多いと問題になるかもしれません。
繊維の多い穀物ではGIは低く、これらの問題は起こりにくくなります。
穀物を使用していても、種類や量を考えてきちんと設計されたドッグフードなら問題がでることはないでしょう。
なので、穀物入りのドッグフードがダメということはありません。
安心して与えてください。
でも、犬は雑食へと変化してきているとは言え、肉食の特徴を多く残しています。
動物性タンパクを多く含むドッグフードの方がより適していることは確かですし、穀物を使わずに他の植物性素材で必要な栄養をクリアできるのならそのほうがベターです。
ただし、ドッグフードが合うかどうかはそれぞれの犬の体質の問題もありますからまずは試してみましょう。