トイプードルやシーズー、マルチーズなどの小型犬を飼ったことのある方なら、眼の内側の毛が茶色く染まってしまう涙やけに悩まされたことがあると思います。
ベースに病気があって起こることもありますが、眼に異常はなく自然に起こってくる事がほとんどです。
せっかくきれいに手入れしていても台無しにしてしまうこの茶色い涙やけ、ネットを見るとドッグフードを変えることで改善するという話をよく目にします。
ドッグフードと涙やけ、一見関係ないように見えるのですが実際のところはどうなんでしょう?
涙やけに関して信頼できる研究報告はほとんどない状態ですが、この記事では得られる情報をかきあつめて考察してみました。
フードの変更以外での涙やけ予防の方法も紹介していますのでぜひ参考にしてください。
Dr.ノブ
タロ
目次
涙は常に涙腺で作られていて、眼の表面が乾かないように保護する役目があります。
瞬目(目を閉じる)の時に瞼(まぶた)は外側から内側へとファスナーのように閉じていくのですが、この時に余分な涙は内側へと集められて上下瞼の内側にある涙点と呼ばれる開口部から、鼻へつながる鼻涙管に流れていきます。
ところが涙を処理しきれない場合、瞼の縁を越えて涙があふれてしまうのです。
このような状態を流涙症といいます。
では、なぜ涙が瞼を超えて外にあふれてしまうのでしょう?
流涙症が起こるのには大きく分けて、
- 涙の産生量が多い
- 涙の排出障害がある
の2つのメカニズムがあります。
涙の産生量が増える原因には、
- 異常に発達した涙腺
- 刺激(逆まつげ、眼瞼内反、タバコの煙、ストレス、プラスチックの食器)
- 感染・炎症(結膜炎、角膜炎、緑内障)
などがあり、涙の排出障害は、
- 涙点が閉塞あるいは異常に小さい
- 鼻涙管の狭窄(生まれつき、結膜炎・鼻炎・外耳炎の波及)
- 涙嚢炎
などによって起こります。
病的なものは治療を受けることで改善される可能性が高いので、病院へ行ってしっかり診てもらいましょう。
Dr.ノブ
これがワンちゃんの顔を刺激して流涙症の原因になることがあります。
食器はステンレスや磁器のものを使うようにしましょう。
一般に問題とされるのは、他に特に異常はないけれど生まれつきずーっと流涙症があるケース。
医学的に問題はないのに涙管が狭くて涙のとおりが悪くなる理由は、犬は眼球が大きく瞼を圧迫して涙の排出がさまたげられることにあります。
体と比較して眼球が大きい小型犬で流涙症が起こりやすいのはそのためです。
眼球が飛び出て鼻が潰れているシーズーやペキニーズではより起こりやすいといえます。
他に、質の悪い食事で流涙症になることもよくいわれます。
これは経験的に正しいようなのですが、なぜそうなのかはわかっていません。
後述する研究報告で腸内環境やアレルギーとの関連を書いていますが、確定的ではありません。
Dr.ノブ
流涙症で涙があふれただけでは涙やけではありません。目元の毛が涙で変色してはじめて涙やけとなります。
涙で毛が変色する原因には、
- ポルフィリンによって染色
- 酵母(マラセチア)によって染色
の2つあります。
涙やけは主にポルフィリンによって起こるといわれています。
ポルフィリンとは、破壊された赤血球(古くなった赤血球は脾臓などで処理される)に由来する鉄を含んだ化合物で、主に胆汁から腸へと排泄されますが、尿や涙、汗などにも含まれるもの。
流涙症によってポルフィリンを含んだ涙が毛に付着することで染色されてしまうのです。
ポルフィリンは鉄を含んだ化合物なので、あの錆びたような赤っぽい色に染まるというわけです。
1つ注意したいのは、ポルフィリンは光に反応する化合物なので、日光にあたると色が濃くなってしまいます。
涙やけのある子はしっかりと涙を拭いてから散歩に行くようにしましょう。
Dr.ノブ
その理由として、生まれつき持っている固有の常在細菌がポルフィリンを産生することが考えられていますが、証明はされていません。
アメリカでは涙やけの原因がポルフィリンであることは常識で獣医師もそう説明していますが、日本でネットを検索するとポルフィリンのことを書いてあるサイトは皆無です。
代わりに、タンパク質が変質して着色するとか添加物で着色するとか、中には塩化リゾチームが犯人と断定しているサイトも。
獣医師監修の記事でそんなことが書いています。いやはや…正しい情報にたどり着くのも大変ですね。
毛が染まってしまう原因にはもう1つマラセチアがあります。
マラセチアは酵母の1種で、口の周囲・耳の中・指の間・肛門周囲などに普通に住んでいる常在菌です。
本来、眼の周りはマラセチアの住む場所ではありませんが、流涙症で目の内側の皮膚がいつも湿っていると、ここでもマラセチアが繁殖してしまうことがあります。
マラセチアが増えた場合にも毛への着色が起こるのです。
マラセチアによる着色ではポルフィリンに比べ茶色く染まるという特徴があります。
よくあるマラセチア性外耳炎で出てくる茶色い耳垢、あれと同じ色です。
Dr.ノブ
あれもポルフィリンとマラセチアによるものです。
ポルフィリンは唾液や足裏から出る汗に含まれ、マラセチアは本来の棲息場所。
同じメカニズムで毛が染まってしまうのです。
以上のように、まず流涙症があり、そこにポルフィリンやマラセチアの作用という2段階の原因があってはじめて涙やけになってしまうのです。
では、本題のドッグフードを変えることで涙やけが改善するのか?という話に行きましょう。
ネットではドッグフードサイトだけでなく、一般の方の体験談として数多くある話なので、信憑性は高いと考えられます。
この記事を読んでいる方にも、実際に経験した飼い主さんもいるかもしれませんね。
質の悪いドッグフードを与えていると涙やけが起こりやすいのはよく知られていますが、だからといって良質なドッグフードに変更しても必ずしも改善するとは限りません。
さらに、このことについての科学的な研究はほとんどなく、ドッグフードの違いの何が涙やけに影響し改善するのかはわかっていないのです。
唯一、ドッグフードの変更が涙やけの改善に効果があったという報告が、ペット栄養学会誌に発表された論文にありました。(小泉亜希子ら,ペット栄養学会誌,20,2017)
以前からドッグフードによって涙やけが変化する犬を使い、涙やけが改善するドッグフードAと悪化するドッグフードBを与えてみて再現性があるか調べたところ、科学的にもドッグフードによって涙やけの状態が良化することが確認されたということです。
この報告の中で、著者らは涙やけに効果があるとされるドッグフードを調べたところ、共通する特徴として、
- 腸内環境改善素材の使用(乳酸菌、オリゴ糖、食物繊維など)
- 低アレルゲンフード
の2つを挙げています。
涙やけとアレルギーの関係をみるために、血液中のIgE抗体も調べられています。
(※IgE抗体はアトピーで増加し、アレルギー反応の引き金になります)
その結果、ドッグフードAとドッグフードBでIgE抗体に差はなかったとのこと。
ということは、涙やけとアレルギーに関係はないのでしょうか?
いいえ、この結果だけで涙やけとアレルギーに関係がないとはいえません。
なぜなら、一般には知られていませんが、犬の食物アレルギーではIgEが関与しないタイプのものが普通にあるのです。(→低アレルゲンのドッグフードを与えたほうがいいの?参照)
傾向として、低アレルゲンのドッグフードで涙やけが改善することがわかったのですから、また違ったアプローチ(リンパ球反応試験など)で調べたら結果が変わってくるかもしれません。
まだまだ研究は十分ではありませんが、ドッグフードを変えることで涙やけが改善するというのはウソではないことが分かりました。
では、具体的にどんなドッグフードを食べさせると涙やけが改善する可能性があるのでしょう。
1つは良質な栄養価の高いフードであること。
質の悪いフードで涙やけがひどくなるのは以前から言われていることなので、良質なドッグフードであることは必須です。
それに加えて、腸内環境改善を考慮した素材の使用と低アレルゲンであること。
具体的には、
- プレバイオティクス(食物繊維、オリゴ糖など)やプロバイオティクス(乳酸菌、ビフィズス菌など)素材の使用
- グレインフリー・グルテンフリー
- 単一or少数の動物性タンパク源
これらの条件を満たすドッグフードとなると、ほぼプレミアムドッグフードに限られてきますね。
ヒューマングレードではなくなりますが、腸内環境改善にビートパルプを使用したフードでもいいかもしれません。
ビートパルプもプレバイオティクスの1種です。

これらの条件に合致するドッグフードとしては、
などが当てはまります。
涙やけのなりやすさには個体差があるので必ずしも効果があるとは限りませんが、試してみる価値はあると思いますよ。
ドッグフードを変えてみたけれど効果がなかった場合や、プレミアムドッグフードはコストがかかるので使えない場合でも、こまめに眼のケアをしてあげるだけでも涙やけを改善することはできます。
以下のことに取り組んでみましょう。
上に書いたように、涙やけの主因は涙に含まれるポルフィリンです。
なので、毛に涙が付着してポルフィリンが作用しないようにこまめに拭き取ってあげましょう。
1日に2回ほど、綿花などを湿らせてやさしく拭き取ります。
毛が湿りすぎた場合は乾いた綿花や布で水分を取り除いてください。
ポルフィリンによる染色は日光によって悪化するので散歩の前に拭いておくと効果的でしょう。
眼のそばで使うものなので、綿花を湿らせるのにホウ酸水がよく使われますが、ホウ酸を含んだコンタクトレンズの洗浄保存液で代用することも可能です(そのままレンズを装着可能なタイプ)。
今は、眼の拭き取り専用のコットンも販売されているので、そういうのを利用してもいいですね。
腸内環境改善の素材はドッグフードにはじめから含まれている必要はありません。
今食べているフードに入っていないのなら、サプリメントを利用して与えるようにするといいでしょう。
前述の通り、プラスチックの食器は表面が傷ついて細菌の温床になってしまいやすいです。
細菌によって刺激されて涙が増えてしまいます。
プラスチックの食器を使っているのなら、ステンレスや陶器の食器に変えてしまいましょう。
一部の犬で涙やけがひどいのは、細菌が過剰なポルフィリン生成に関係していて、個々の持つ常在菌に差があるためではないかと推測されています。
それを裏付けるように、ある種の抗生剤を使用することで涙やけが改善されることがわかっています。
スタンダードな治療ではないですが、涙やけがひどいのならかかりつけの先生に相談して抗生剤を処方してもらってみてはどうでしょう。
涙やけの原因となるポルフィリンは鉄を含んだ化合物です。
もし、飲み水に水道水を使っていて、その水がサビ臭いのなら鉄分が多いのかもしれません。
その場合は、浄水器をつけることを検討してみてください。
涙やけは噂通りにドッグフードを変えることで改善される可能性があるようです。
ただし、変えればいいというものではなく、腸内環境改善や低アレルゲンを考慮した高品質のドッグフードに限られます。
また、フードを変えれなくても、こまめに眼のケアをしてあげることでも十分に改善は可能です。
これまで愛犬の涙やけをあきらめていた方も、一度試してみてはどうでしょう。