愛犬が皮膚炎になり体を痒がっていると、食べているドッグフードに対してアレルギーを起こしているのかと思いがちです。
確かにワンちゃんに食物アレルギーは珍しくないのですが、実際はその他の原因で痒みが起こっていることの方が多いものです。
他の原因で痒がっているのに食物アレルギーだと思いこんで、低アレルゲンフードに変えたところで痒みがマシになることはないでしょう。
食物アレルギーで起こる症状の大まかな特徴を知っていればこのようなことは避けられるはずです。
この記事では、食物アレルギーの症状について簡単にまとめてみました。
Dr.ノブ
食物アレルギーになったからといって体中どこでも痒がるというわけではありません。
症状が進行してくるとほぼ全身に広がりますが、初期~中期では症状があらわれやすい部位には一定の傾向があります。
引用:DERMATOLOGY,25,2014
上の図のピンク色の部分が食物アレルギーの症状が出やすい部分です。
見て分かるように
- マズル(口吻)
- 目の周り
- 外耳
- 腋窩
- 足先
- お腹
- 内股
- 肛門周囲
が好発部位。
眼瞼や耳、体の内側など毛の薄い部分に起こりやすいことが共通しています。
だだし、その子その子で症状の出方は違いますので、これら全てに症状があらわれるとは限りません。
たとえば初期の食物アレルギーでは外耳だけ痒がるということも多いのです。
なので、単純な外耳炎だと思っていても、たびたび繰り返しているようなら食物アレルギーの可能性があります。
顔付近ばっかり痒がる子もいれば、足先ばかりなめている子もいます。
歳を重ねて慢性的になってくると上の図のほぼ全部に症状が出てくることが多いですが、最初のうちは色んなパターンがあるので注意しましょう。
アレルギーの症状というと痒みの他に、
- 毛が抜ける
- 湿疹ができる
- ただれてくる
- 赤くなる
などがあると思っている方が多いのですが、これにはちょっと誤解があります。
というのも、本来、アレルギーの症状というのは痒みがあるだけなんです。
上に挙げた症状は痒みのためにワンちゃんが舐めたり掻いたりすることで二次的に起こってくる症状。
皮膚を物理的に刺激したり傷つけたりすることで、初めてこれらの症状が起こってくるものなのです。
一般にアトピーや食物アレルギーのワンちゃんというと、上の図の好発部位の毛が抜け、象の皮膚のようにガタガタになってしまった状態の写真がよく例として挙げられています。
しかし、それはすでに皮膚を掻き破って細菌やカビが繁殖し炎症が激しくなってしまっている状態です。
アレルギーだけでは痒みとせいぜい皮膚がほんのり赤くなるくらいであることを知っておいてください。
つまり、初期には湿疹もできず毛も抜けず、ちょっと体を掻く回数が増えたかなくらいということ。
この時点でアレルギーに気づいて対処してあげることができれば、毛が抜けたり皮膚がただれたりするのを防ぐことができます。
ドッグフードに含まれるアレルゲンによって起こる食物アレルギーと、環境中にあるアレルゲンによって起こるアトピーでは症状が非常に似ています。
なので、臨床症状だけで両者をはっきり区別することは難しい場合がほとんどです。
時に両者を併発している場合すらありますからね。
だけど症状やその出方にある程度の違いはあるので、大まかに食物アレルギーだろうと判断できる場合もあります。
食物アレルギーがアトピーと異なる部分には次のようなものがあります。
食物アレルギーではアレルゲンへの感作が離乳期前後に起こると考えられています。
そのため、早い子は生後6ヶ月くらいでアレルギーを獲得してしまいます。
それに対し、アトピーでは通常2歳くらい、早くても1歳を超えてからの発症です。
なので、非常に若い頃から発症が見られたワンちゃんでは食物アレルギーの可能性が非常に高くなります。
食物アレルギーとアトピーでは好発部位はほぼ同じです。
図で比べてみると
引用:DERMATOLOGY,25,2014
左がアトピー、右が食物アレルギーの好発部位です。
よーく見ると、右の食物アレルギーでは腰の部分と肛門がピンク色になっているのが分かると思います。
この部分はアトピーでは好発部位ではありません。
ただし、アトピーも進行して慢性化がひどくなると背中側にも病変がでてくることがあります。
なので、わりと早い段階で腰の背中側に症状が出ているようなら食物アレルギーが疑われます。
Dr.ノブ
アトピーは特定の季節に出てくる植物や温かい時期に増えやすいダニの死骸などがアレルゲンになるので、通常、症状には季節性があり多くは温かい時期に発症します。
それに対し、食物アレルギーは日頃食べているドッグフードに対して起こってきますから、1年中症状が出るという特徴があります。
ただし、食物アレルギーでも夏場は二次的なトラブルが起こりやすいので症状にある程度の季節性はあります。
また、アトピーも慢性化が進むと年中皮膚の状態が悪くなります。
もう1つ、食物アレルギーの大きな特徴として消化器症状が出る場合があります。
症状の程度もいろいろで吐いたり下痢したりする場合もあれば、軟便程度の場合、軽いものでは便の回数が増えているだけの場合もあります。
このような症状はアトピーでは見られません。
食物アレルギーでは皮膚症状に気づく前に消化器症状が出ていることもあるので、重要な指標になります。
食物アレルギーとアトピーのどちらも、ワンちゃんでは歳を重ねるごとに症状がひどくなる傾向があります。
人のアレルギーでは一般に歳を取ると症状が軽くなることが多いのですが、ワンちゃんではそういう例はあまりありません。
長く付き合っていかないといけない病気だと思ってください。
皮膚がただれたり象の皮膚のようになったり、二次的な変化が起きて慢性化してしまうとコントロールが難しくなります。
なので、まだ痒みだけしかあらわれていない段階で、積極的にケアをしてあげることが大切です。
愛犬に痒みが見られたらかかりつけの先生に相談してみましょう。
病院にかかるといっても初期からいきなりステロイドのような強い薬を使うわけではありません。
定期的な薬浴や保湿など皮膚のケアだけでもかなりワンちゃんは楽になります。
また食物アレルギーだけの問題であれば、低アレルゲンフードに切り替えるだけでかなり改善されるかもしれません。
物言えぬワンちゃんのために積極的に対処してあげてください。