気がつくと水入れの水がからっぽになっていたなんてことはありませんか?
たんに水を入れ忘れただけであれば問題はありませんが、そういえばこのところいつも水がなくなっている、という場合には重大な病気が起こっているかもしれないのです。
水を飲む量なんて人でもあまり気にしていないですから、愛犬の飲む量はなかなか気づきにくいかもしれませんね。
ワンちゃんは言葉を話せないので病気になっても自覚症状を訴えることができません。
なので、飼い主さんが愛犬のちょっとした変化に気づいてあげることが健康管理に必要になります。
特に日頃のドッグフードの食べ具合を注意して観察することはとても大切です。
好き嫌いで食べなことも多いですが病気が隠れているケースがあります。

また以前より食べ過ぎるというのも病気の症状である場合があります。

そしてもう1つ食欲とともにワンちゃんの健康管理で重要な観察項目が今回紹介する水を飲む量のチェックです。
この記事では、飲水量の変化で考えられる原因についてまとめましたので参考にしてください。
飲水量は愛犬の健康管理で重要なチェック項目なので、ぜひご一読ください。
Dr.ノブ
タロ
目次
飲水量が少ないことはあまり有用な情報とはいえません。
大きな病気がある時はきっと他にも重要な症状があらわれているはずです。
診察をしていると「水をあまり飲まない」という相談をされることがあります。
けっして体調が悪いわけではなく、ワクチン時の診察などで聞かれるんです。
で、尿はちゃんと出ていますか?と聞くと「普通に出ている」とのこと。
尿量も少ないわけではないのです。
こんな場合はまったく心配はありません。
尿が普通に出ているのですから、それ以上の水分をちゃんと摂取しているはずです。
そうでなければ脱水してしまいますからね。
体調がいいのに脱水するほど自ら水を飲まないということは考えられません。
飲水量が少ないと感じる原因には、
- 飼い主さんが飲水量を見誤っている
- ウェットフードなど水分量の多い食べ物を食べている
- 食器以外から水を飲んでいる(風呂の水やたまった雨水)
などが考えられます。
体調が良ければ水を飲む量が少ないと感じても気にしなくていいです。
病気で体調が悪く食欲がない時でも水だけは口にすることは多くあります。
水を飲む行為はそれほど労力もいらないので、かなり体力を消耗している時でも、食欲をまったくなくしてしまっていても、けっこう水は飲んでくれるんですよね。
だけど、よほど衰弱してしまって水を飲む気力もないというわけでもないのに、水を飲んでくれない場合があります。
こんな時は何が考えられるのでしょう?
おそらくは吐き気があって水を飲むことができないのです。
体は水分を欲していても水を飲もうとするだけで吐き気をもよおしてしまうのです。
他にも口が痛いとかお腹が痛いなんてことも考えられますが、何にせよ他に明らかな症状があるでしょうから、水を飲まないことだけが唯一のサインということはないでしょう。
逆に水をたくさん飲む場合には重大な病気が隠れていることが少なくありません。
そして、水分を体に多量に取り込むことで必ずオシッコの量も増えてきます。
このことを多飲多尿といいます。
多飲多尿がみられる主な病気には次のようなものがあります。
雌で避妊をしていない愛犬に多飲多尿の症状があらわれれば、まず疑われるのが子宮蓄膿症という病気です。
子宮蓄膿症は文字通り子宮の中が化膿する病気で、典型的な症状の1つに多飲多尿があります。
体の中が化膿しているのですから、当然、
- 元気がなくなる
- 食欲が落ちる
などの症状もみられることが多いです。
しかし、開放性といって膿が陰部から出てきている場合にはさほど体調が落ちないこともあるので注意が必要。
膿が出てきていてもワンちゃんが舐めてしまって飼い主さんが気づいていないということもあります。
子宮蓄膿症になりやすいのはシニア以降ですが、3歳程度でなる子もいます。
なりやすい時期は生理の1~2ヶ月後。
この時期は要注意です。
多飲多尿は子宮蓄膿症の重要なサインとなります。見逃さないようにしましょう。
糖尿病も典型的な症状として多飲多尿がみとめられます。
人ではおなじみの病気ですがワンちゃんにも糖尿病は珍しくありません。
腎臓で尿が作られる時は糸球体という部分でろ過されて薄い尿が生成されます(原尿といいます)。
そして原尿が尿細管という部分を移動していく間に、水分が再吸収されることで通常の濃い尿がつくられるんです。
ところが糖尿病で尿に糖がおりてしまうと、浸透圧の関係から水分の再吸収がうまくいかなくなり、尿量が極端に多くなってしまいます。
排出された尿のぶんだけ体の水分が失われるため、喉が渇きたくさんの水を飲むというサインがあらわれてきます。
初期の糖尿病では”異常に食欲がある”という症状も重要なサインです。
腎不全は病気が進むと、
- 食欲が落ちてきたり
- 時々吐くようになったり
- 体重が落ちてきたり
して、飼い主さんも「おかしいな…」と気づくことが多いです。
しかし、初期の段階では元気や食欲があまり変わらなくて、よほど注意して観察していないと見逃してしまいやすい病気です。
年をとったことによる衰えと間違えてしまうんですね。
でも水を飲む量やオシッコの量に気をつけていると早い段階で腎不全に気づいてあげられるかもしれません。
腎不全になると初期の段階から尿が薄く多くなり、比例するように飲水量も増えていきます。
腎不全を治すことはできませんが、早期に発見できれば腎機能を温存する治療で余命を伸ばすことができます。
定期的に血液検査をするのもいいですが、血液検査で異常が出ている時点で腎不全は初期を過ぎてしまっています。
先に尿の異常が出てくるので、合わせて尿検査も受けましょう。
みなさんステロイドって聞いたことありますよね。
消炎作用のある薬によく入っている成分ですが、もともとは体の中で作られるホルモンの1種なのです。
性ホルモンもステロイドホルモンですが、ここでいうステロイドとは腎臓のそばにある副腎という小さな臓器から分泌されるホルモン(主にコルチゾール)のことを指します。
さて、このコルチゾールというホルモン、ストレスにさらされた時に分泌されて体がストレスに適応するように働くのですが、病気によって多量に出過ぎることがあります。
このようにコルチゾールが多量に分泌される病気を副腎皮質機能亢進症(クッシング症候群)といいます。
クッシングの典型的な症状の1つがやはり多飲多尿なのです。
他に、
- 食欲亢進
- お腹が大きくなる
- 脱毛
- 皮膚病を多発する
などがあります。
クッシングの原因は副腎の腫瘍や副腎をつかさどる脳下垂体の腫瘍によるものです。
クッシングは急死することもあるので、疑いのある時は早めに病院で診てもらいましょう。
医原性クッシングといって、ステロイド剤の使いすぎでクッシングの症状があらわれてくることがあります。
この場合は薬を切っていくことで回復しますが、いきなり薬を止めてはいけません。
ずっとステロイドを飲んでいた子がいきなり薬を止めると死んでしまうことがあるので、必ず獣医さんの指導のもと段階的に切っていく必要があります。注意しましょう。
シニア犬によくみられるホルモン性の病気に甲状腺機能低下症というのがあります。
甲状腺とは喉の左右にある小さな分泌器官。
ここから分泌される甲状腺ホルモンは体のあらゆる代謝に関係してくる重要なホルモンです。
甲状腺機能低下症では甲状腺ホルモンが減って全身の代謝が悪くなってしまい、毛が抜けてきたり不活発になったり太りやすくなったりします。
逆に甲状腺ホルモンが異常に増加する病気を甲状腺機能亢進症といいます。
人ではバセドウ病として知られていますが、犬ではバセドウ病はほとんどありません。
しかし、たまに甲状腺腫瘍によって甲状腺ホルモンが異常増加することがあるのです(ビーグルに多い)。
甲状腺ホルモンが増加すると体の代謝が激しくなり、食欲亢進しているのに痩せてきたり、攻撃的になったりいろんな症状がみられます。
その症状の1つに口が渇いて水をよく飲むというのがあります。
糖尿病のところで書いたように、尿細管から水分が再吸収されることで尿が濃縮されます。
この再吸収をコントロールしているのが下垂体から分泌されるバソプレッシンというホルモン。
バソプレッシンの分泌が抑制されると尿細管での再吸収ができなくなり、尿量が異常に増えることになります。
この状態を尿崩症といいます。
下垂体の先天異常、炎症、腫瘍などが原因です。
Dr.ノブ
あれもアルコールによってバソプレッシンが抑制されてなるんです。
実は糖尿病や腎不全など他の原因で起こる多飲多尿も、巡り巡ってバソプレッシンが抑制されて起こってくるのです。
血液中のカルシウム濃度は一定の範囲内に維持されていますが、いろんな病気が原因で異常に高くなってしまうことがあります(高カルシウム血症)。
高カルシウム血症になると喉が渇き多飲多尿の症状があらわれてきます。
原因となる病気には、リンパ肉腫などの腫瘍性疾患や上皮小体機能亢進症、ビタミンD過剰症などがあります。
では、ワンちゃんは1日にどのくらいの量を飲めば多飲といえるのでしょうか?
一般に、正常な犬は1日に体重1kgあたり45~90ccの水を飲むといわれています。
結構幅がありますが、小さなワンちゃんは多めに、大きなワンちゃんでは少なめになります。
1日あたりの飲水量は、表にするとだいたい次のようになります。
※表が隠れている時は横にスクロールしてください
kg | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 10 | 15 | 20 | 25 | 30 | 35 | 40 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
量(ml) | 190 | 260 | 320 | 370 | 430 | 480 | 530 | 580 | 630 | 850 | 1060 | 1250 | 1440 | 1610 | 1780 |
この量を目安にして、大幅に超えているようなら多飲になっている可能性が高いです。
多飲多尿は飼い主さんでも気づきやすく、しかも重大な病気である可能性の高いサインです。
日頃の食欲や便の状態とともに、健康管理の指標としていつも注意しておくようにしましょう。
常に飲水量を計る必要はありませんが、日ごろと比べて多く感じたなら正確に計ってみることをおすすめします。